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加美で暮らす人

 

CASE.2

「米作りは生き方」都会から単身、農業の道へ

Masahito Tahara / from Osaka to Kami Town,Miyagi.

Beautiful People

宮城県加美町の清流・鳴瀬川のほとり、小さな田んぼと一人で向き合いながら、「米作りは生き方」と語る田原雅仁さん(32)。大阪で生まれ、映画監督を目指して東京に行った田原さんは、「米作りをしたい」と25歳で単身、何の縁もない加美町へやって来た。農業経験なしの若者が、農地を探し、米作りに人生を懸ける、その思いとは……。

映画から米作りへ
まちおこし協力隊第1号に

田原さんは大阪の高校を卒業後、映画監督を目指して上京。専門学校に通いながら、撮影の現場で働いた。だが、現実は想像とはかけ離れていた。「一生を懸ける仕事を探そう」と考えた田原さんが行き着いたのが米作りだった。「日本人が一番長くやってきた職業が農業。その先端に立ってみたい」と農業への道を進む決意をした。
経験は全くなし。25歳の時、偶然、知人の紹介で加美町へやって来た。「仙台から車で1時間、大きな都市から遠すぎず。ちょうどいいと感じた」と振り返る。前年の2009年から、総務省が農村部活性化のために都市部の若者を呼び込む「地域おこし協力隊」の制度を創設していた。田原さんは町に提案して、協力隊の公募をしてもらい、第1号に採用された。生活費と住居を提供してもらいながら、農家に弟子入りして一から農業を学んだ。
農業の技術は学べば身につくけど、一番実感したのは『農業は一人ではできない』ということでした」といい、「田舎で農業をやるというと、一人で自然と向き合って“孤独”みたいなイメージだけど、全く違う。田舎の方が人と人との絡みが強いんです」と述懐する。
大阪出身の田原さんは、あまり本音を明かさない東北人の気性にとまどった。だが、「トラクターがぬかるみにはまったら一人ではどうしようもない。田植えだって何だって絶対誰かの助けが要る」と誠心誠意、町の人たちと付き合ううちに溶け込んでいった。「協力隊の第1号で、町おこしにも取り組んだりしているうちに、都会から来た若い者が農家を目指しているということで、可愛がってもらえるようになった」という。

念願の独立も豪雨の被害に

採用期間の3年が経過して独立を目指したが、「農地を探すのが、また大変でした」。耕作しやすい農地はなかなか借りられず、知人の紹介で何とか1.3㌶の土地が見つかった。狭い農道を軽トラで走り、突き当たりにある鳴瀬川沿いの圃場(ほじょう)だ。ちょうど前年に農水省が若者の就農を進めるために導入した「青年就農給付金」を活用し、トラクターなどの農機具購入費などにあてた。
「六根舎」の屋号で、「無農薬有機肥料、そして天日乾燥のお米」にこだわった米作りに取り組む。「六根」とは味覚や視覚などの「五感」に「意」を加えた仏教用語で、「六根を満たす」米を作るという思いを込めた。1年目は仙台の知人や、東京の友人らさまざまなつてをたどって販売した。
3年目には新たな農地が見つかり、いよいよ本格的な米作りに取り組んでいた2015年9月、東北地方を豪雨が襲う。鳴瀬川が氾濫し、川沿いにある田原さんの田んぼにも水が上がった。「貸してくれた人が『80年農業やっているけど初めて』という災難。ガレキや土砂が田んぼに入っていた」と語る。
だが、仙台の大学生たちのボランティアが約60人やってきて、復旧を手伝った。収穫直前ということもあり、幸いにも全滅は免れた。「SNSで呼びかけたら若い子たちがすぐ集まってくれた。東日本大震災を経験しているので、ボランティアは当たり前のようになっていて、お礼も受け取らずに手伝ってくれて、本当に助かりました」と振り返る。

「農業は闘い」
新たな担い手の姿が

そして7年目の今秋、無事に収穫を終えた。修業が3年、自立して4年、「農業は闘いです。やめなきゃいけないかなあと思ったときもあったけど、何とか踏ん張ってやってきた」という。自分の米と町内産の大豆を使ったみそ造りも始めた。「米作りは1年かけてどれだけ取れるか分からないけど、みそは原材料があればその分だけ造れるのがいいですね」と笑顔だ。「米作りは生き方、みそ造りは仕事という感じ。農家としての土台もようやくできつつある」と自信を見せる。
「正直に米と向き合うのが一番大事なので、田んぼは今の大きさでちょうどいい。やっぱり自分が作った米を『おいしい』ってお客さんに言ってもらえるのが一番うれしい。農業は人とのつながりですね」と語る田原さん。農業の担い手の新たなスタイルがここにある。

六根舎 田原雅仁さん

ろっこんしゃ たはら・まさひと/大阪府生まれ。六根舎代表。
六根舎Web Site: http://rokkonsya.com/