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加美で暮らす人

 

CASE.4

「季節のおいしさを感じるぜいたく」レストラン

Kazuma Ozaki / from Shizuoka to Kami Town,Miyagi.

Beautiful People

その美しい山容から「加美富士」とも称される薬莱山(やくらいさん)。宮城県加美町のシンボルともいえるその山のふもとに、小さくて可愛いレストラン「GENJIRO」がある。美しい森の中、煙突のある三角屋根。店内には木製のテーブルやチェストなどアンティークの家具、まきストーブが置かれ、窓からは鉄製のユニークなオブジェがさりげなく飾られた庭が見える。「まるでジブリの世界」と評判になっている。料理を担当しているのが尾崎千真(かずま)さん(43)だ。

静岡県出身の尾崎さんは店主・遠藤みどりさんのおい。小さい頃からよく遊びに来ていたという。高校卒業後、大阪で調理専門学校の講師などを経て、豪華客船「ぱしふぃっくびいなす」のレストランに勤務していた。外洋クルーズや世界一周もする船では「1〜2カ月休んで、4カ月は休みなしに仕事。そんな華やかな生活でした」と振り返る。

転機は5年前。結婚を機に船を降りて、地に足の着いた暮らしをしようと考えた。「子供ができたら自然の中で育てたい」と小さい頃から慣れ親しんだGENJIROに戻ることを決意した。

GENJIROは「30年の歴史がある店で、いろいろなお客様とのつながりがある」ことが大きいという。「大阪のレストランや客船の中とは違い、お客様と、いい意味で“一線を越えた”いい関係にあるので、やりがいもありますね」と話す。「都会の中で慌ただしく毎日を過ごしていたので、自然の中で余裕を持って仕事をすることの大事さにも気づきました」とも。
店の自慢は何といってもカレーだ。自家製の25〜30種類のハーブとスパイスを使ったもので、「ほかでは味わえないカレーをイメージしています。お肉もハーブで味付けして、赤ワインで柔らかく煮込んだものです」と笑顔で語る。ほかのメニューでもその日取れた野菜などをあしらうなどしている。「できるだけ地のもの、旬のものを使っていきたい」
店の裏には窯がある。ピザやパンを焼いたり、大きなスモーカーでニシンのスモークなども作るという。店の暖炉でダッチオーブンを使ってパンを焼いたりもできる。「こういうところで焼いて食べるだけでもおいしく感じられる」と語る。冬場は店が休業だが、リンゴをコンポート(果物をワインやシロップで煮込む欧州の伝統的保存法)にして瓶詰めにしたり、イチジクのドライフルーツを作ったりといった作業をする。「ニシンのスモークは丸2日かかるので、冬場じゃないとなかなかできません」と話す。「リンゴも加美町のもので、地場のものを使って食べていただけるのは都会ではできません」と胸を張る。

店では、隣の農家で飼う牛の搾りたて牛乳を楽しめる。「本当にぜいたくですね」と話す。ここで調理するようになって、「自然のものを使って調理できる喜び。取れたての野菜のおいしさ、野菜も作る人によって味が違うのが分かる。野菜のうまみの濃さが違う。ここに来て季節のもののおいしさを実感して驚いた」と話す。さらに「そういうもののおいしさをきちんと出せないといけないなと身が引き締まる思いもある」と調理人としての新たな思いも明かす。

加美町の魅力は「自然とか田舎とかいいますが、仙台から1時間ほどで遠過ぎないのもいいですね。地域の人も温かく迎えてくれる」と話す。大阪からの移住は「不安がなかったというとうそになる。家族と一緒に来られたのが大きかった。私にとっては大正解だった」と振り返る。好きな季節を聞くと「雪解けを待って、やって来る春は本当に一瞬。草木が芽吹いて、木の色が変わってきて。客船乗務時は、寒い時は暖かい所、暑い時は涼しい所へ行くので、あまり季節を感じられなかった。これまで当たり前のように吸っていた空気も、ここに来ると本当にきれいだなあと感じられる」と目を輝かせた。

加美町に暮らして、「生活のテンポはいい意味で一定になりました。早起きをして天気を見たり朝を楽しむようになった。薬莱山が日差しに輝いているなと感じたり、都会の生活ではそんなことはなかった。素朴ですけど、自然を感じられるようになったのが人として大きな変化かもしれませんね」と語る尾崎さん。大自然の中、季節を感じながら過ごす日々。実にぜいたくな生活と言えるだろう。

GENJIRO 尾崎 千真さん

おざき かずま/静岡県出身 GENJIRO シェフ。
GINJIRO Web Site: http://genjiro.org/